battle in SA・U・NA

扉を開けると、熱気。来る。来る。
熱い漢たちが所狭しと座っている。しかも、全裸。
 
一瞬、後悔する自分。いや、駄目だ。
むりやり座る。「すいません」と小声。
と、同時に席を立つ若者一人。それを見た老人が顎をさすりながら
ニヤついている。
 
・・・5分ほど時間がたったのだろうか、汗がにじみはじめる。
周りを見回すと、最初よりもずいぶん人が減っている。視界、良し。
 
それにしても、熱い。
 
また一人出て行った。先ほどの老人はそれを見てまたニヤニヤ。
顎をさする。そしてこちらを見る。チラリ、チラリ。
なるほど、これは負けられない。
 
残っているのは、4人。
老人と、タオルを頭から被っている人、もやし男、そしてぼく。
じっとテレビ(中島美嘉黒柳徹子の対談)を見つめる。
 
予想通り、もやしっこはすぐに出て行った。当然、当然。
それを見た老人は禿げた頭をさすり、周りを見る。
・・・あっ!老人の顔から笑顔が消えてる!苦しいんだ!
 
がぜんやる気の出た僕は、背伸びをしてストレッチ運動。腰をぎにぐに。
しかし、運動は体力の消耗に繋がることに気付き、止める。反省。
 
そろそろ限界が近づいている・・・ほら、こんなにも汗が!
そのとき!いままで微動だにしなかったタオル男が遂に頭からタオルを外す!
顔は苦しそうな表情!腰が・・・浮いた!
 
老人も目を見開いて彼を見つめる。閉じる扉、目線は・・・僕に。
ほとばしる緊張!「まだだいじょうぶ」そう言い聞かせて、前を見る。
老人はガクリと頭を落とし、手を見ていた。
 
いつの間にか、老人の動きを見つめる僕・・・
時折腰を浮かし、座りなおす老人。ふん、そんなフェイントには騙されない。
 
部屋には二人だけ。今のバトルをブッシュが見たらどう思うだろうか?
そんなことを考える。確実に脳障害が起こっている。もやもやする。
チラチラこちらを見る老人。負けないぞ。
 
ふと、「次に誰かが来たら(老人は)出るのだろうか?」と思う。
そうだ!そうに決まっている。誰か入ってこないのか。まだだ、まだ、来ない。
 
ああ、どうしてこんなに苦しい思いをしないといけないのか?
こんな老人とは接点がまるでないじゃないか?
得るものも全くないじゃないか・・・
苦しい。意識が遠のく・・・
 
扉が、開いた!何も知らずに入ってくる青年!お前は、さしずめ、バットマン
老人も頭を上げ、彼を見る。そして、何かを訴えるかのようにこちらに目線を。
 
いや、勝てる!そう確信した僕は、ほっぺたを両手でぱちんと叩く。飛び散る汗。
老人は、それを見て「ふっ」と笑顔を見せ(たような気がする)、腰を浮かす。
 
今度はフェイントじゃない。扉を開けるとき「えんだぁ〜るあ〜〜」と
何故か結婚式でよく聴くアレが聞こえた。スローモーッションで。
 
勝った・・・バットマンも盛大な拍手で僕を見る(気がした)。
限界だ。精一杯の力を振り絞り、両手をグーで上げ、ウイニングロード。
 
扉を開ける。眩しいくらいに真っ白な視界。ああ、目眩がする。
ぬるい水をごくごく飲み、顔を上げる。
 
気が付くと、虚しさが支配していた・・・